妻が勤めていた人妻風俗店の元同僚が誘ってきた
その日僕は、何も知らずに先輩のマンションに遊びに行った。
でも、なぜ僕が呼ばれたのかわからなかった。僕は去年会社を辞めているし、それから先輩とは一度も会っていないのだ。
「おう、来たか。上がってくれ」
久しぶりに会う先輩は、満面の笑みで出迎えてくれた。
「おじゃまします」
部屋に上がると、結婚3年目の夫婦にしては足りないものがあった。それは子供のオモチャやにぎやかな赤ん坊の泣き声だ。
先輩は結婚して3年になるのに、まだ子供にめぐまれなかった。
夕食をごちそうになり、ビールを飲んで楽しく過ごしているうちに9時になった。そろそろ帰ろうと思っていると、先輩が「今夜は泊まって行け」と言う。しかし、ここは断るのが礼儀だ。
「いや、でも」しかし、「いいから泊まって行けよ」と先輩も譲らない。
「本当に泊まっていいんですか?」
「ああ、かまわないよ」
「ぜひそうして」
一度は遠慮しようと思ったけど、奥さんまでそう言ってくれるので、泊まることにした。
先輩は職場結婚だったから、奥さんの香織さんのことも良く知っている。
香織さんは社内でも評判の美人で、僕も密かに憧れていた。
久しぶりに会った香織さんは昔のままで、人妻になっても少しも変わらなかった。いや、まだ結婚して3年だから、人妻というより若妻といったほうがいいのかもしれない。
12時を過ぎるとそろそろ寝ようということになり、先輩と香織さんは自分たちのベッドで、僕は同じ部屋に蒲団を敷いて寝ることになった。
僕の目の前で、人妻になった香織さんが化粧水をつけている。あれほど憧れていた香織さんの、こんな姿が見られるなんて思ってもいなかった。
「そろそろ寝ましょうか」
「はい」
香織さんはピンクのパジャマを着ていた。それが何ともかわいらしく見え、しかもノーブラだから豊かな胸の形がリアルにわかる。僕は少しドキドキしながら蒲団に入り、すぐ眠りについた。
どれくらいたったのかわからない。ベッドの軋む音と香織さんの悩ましい喘ぎ声で目が覚めた。
「先輩たちがセックスしてる!」
一瞬で目を覚ました僕は、思わず蒲団の中でペニスを握り締めた。香織さんの喘ぎ声で、すでにペニスは痛いくらい勃起している。人妻の喘ぎ声はこんなにすごいのかと思うほど、彼女の声はエロく僕の耳に響いた。
会社では清楚な淑女にしか見えなかったのに、いまでは人妻となって先輩に抱かれて喘ぎまくっている。
考えてみれば、香織さんは人妻なのだから、夫である先輩とセックスしても何の不思議もない。しかし、なぜ僕が泊まった晩にセックスする必要があるのか。
明日になれば僕はいないのだから、なにも今夜することはないのだ。
「あっ、あっ、あん、あんっ、あぅぅ!」
香織さんはいまにもイキそうに喘いでいたけど、先輩のほうが先に終わってしまったようだ。先輩が動かなくなると、部屋の中が急に静かになった。
不意にベッドがギシリと鳴って、先輩がベッドから降りた。トイレにでも行くのかと思っていると、「おい」と肩を揺すられた。
どういうことかわからない。ここで僕を起こしてどうするつもりだ。じっとしていると、今度は肩をたたかれた。
「何ですか」
僕はたった今起きたような顔で、先輩のほうを振り返った。
「お前A型だよな」
「えっ」
一瞬、何のことかわからなかった。
「血液型だよ。お前A型だろ?」
「そうですけど」
すると先輩は香織さんのほうを見て、「いいよな」と小さいがはっきりした声で言った。
香織さんがそれにうなづいて見せる。僕にはまだどういうことかわからない。
「だったら、香織を抱いてもいいぞ」
「えっ」
「香織を抱いていいって言ったんだよ」
ますますわからない。
「冗談ですよね」
僕は先輩と香織さんの顔を交互に見たが、2人とも冗談を言ってる顔ではない。
「真面目に頼んでるんだ」
「どういうことか説明してくれますか」
何か事情がありそうだと思った。僕の声は少し震えていたかもしれない。
すると、先輩は無精子症だと教えてくれた。先輩も香織さんも一人っ子だから、子供ができないとどちらの親も孫を抱けない。両方の実家から「孫はまだか」と言われ続けた2人は、究極の選択をするしかなかった。それは、誰かの精子をもらって子供を作ることだ。
僕がその相手に選ばれたのは、すでに会社を辞めているからだろう。それに、僕も先輩と同じで色が白く、二重瞼だったことも条件にかなっていた。
「俺はシャワーでも浴びてくるわ。香織、あとはまかせる」
すべてを話し終わった先輩は、少しだけ香織さんと見つめ合って部屋を出て行った。
「こっちに来て」
ベッドの上で香織さんが手招きする。薄暗い明かりの下で、香織さんの瞳が妖しく光っていた。
「ほんとにいいんですか」
香織さんは無言でうなづいた。僕の喉はカラカラに乾いていた。
ベッドに上がるとキスを求められた。香織さんはすぐに舌を絡めてきたが、すでに息が荒かった。それは、先輩に抱かれてイク寸前だったからなのだろうか。
僕は早めにセックスを済ませたほうがいいと思った。なぜなら、先輩も香織さんも僕の精子が欲しいだけなのだ。香織さんには、僕とのセックスを楽しむつもりはまったくない。僕は香織さんの中に挿入すると、勝手に動いてすぐに果てた。
シャワーを浴びて風呂場を出ると、先輩が台所でビールを飲んでいた。目が合うと手招きされ、僕はバスタオルを腰に巻いただけの姿でテーブルについた。
先輩がついでくれたビールを飲む。どちらも無言だった。重い空気に胸が押しつぶされそうだ。
香織さんがシャワーを浴びて出てくると、僕たちと一緒に飲んだ。真夜中に奇妙な酒盛りが始まった。
先輩は、日曜日の夜までいてくれと言う。断ることはできなかった。それだけではない。今夜は香織さんと一緒に寝てくれと頼まれた。先輩はリビングでソファに寝るつもりらしい。
翌朝になると先輩の姿がなかった。ネットカフェに行くと香織さんにLINEが来ていた。僕は日曜日の夕方まで香織さんと2人きりで過ごした。
2か月後、香織さんが仕事中に突然嘔吐して妊娠がわかった。
父親と名乗れない僕の子供が生まれたのは、翌年のことだった。
文|清水照美
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